犬の口腔腫瘍 1. 総論

犬の口腔内や口周りは腫瘍が発生することが多く、悪性・良性問わず診察する機会が非常に多い場所です。

メラノーマ(黒色腫)、扁平上皮癌、線維肉腫、骨肉腫、エプリス、髄外性形質細胞腫など様々な腫瘍が認められますが、個々の病気により治療法や予後(病気の見通し)はまちまちです。

切除によって完治が望める場合も多いですが、発見が難しい場所にある場合には浸潤・巨大化して切除そのものが困難になり、さらには悪性腫瘍が全身に転移してしまい厳しい経過をとることも少なくありません。

当院も開院からの短期間の間に様々な口腔腫瘍に遭遇し治療を行いました。怖い経過をとることが多い病気ではありますが、病気が広がる前に適切な治療を行えば完治することも十分可能な病気です

そのために飼い主様の日々の観察=早期発見が非常に重要になります。その一助になるようこのコラムで犬の口腔腫瘍を簡単に説明していきます。

目次

どんな腫瘍があるのか

メラノーマ(悪性黒色腫)

犬の口腔内悪性腫瘍で最も発生が多く、切除後の再発率も高く、全身への転移も早期に起こる犬の難治性「がん」の代表的な一つです。黒色腫という名の通り黒いことが多いのですが、無色素性と言って黒くないメラノーマも存在します。

歯茎や唇、舌、口蓋(口内の上の壁)など口周りのどこにでも発生し、最近ではダックスフントやトイプードルで診察する機会が増えています。悪性度が極めて高いため積極的な治療が必要になります。

典型的な黒いしこりです
一見口内炎のようにも見える黒くないタイプも存在します

扁平上皮癌

犬・猫ともに発生率の高い悪性腫瘍で、歯茎や唇、舌などに発生します。発生する場所によって同じ癌でも性質が異なっている腫瘍です。

いずれも浸潤して増殖しますが歯茎に発生した扁平上皮癌は局所に限局して問題となり全身への転移は稀です。一方で扁桃腺にできた扁平上皮癌は、早期発見が非常に難しく、またリンパや全身への転移が急速に起こります

歯周病で歯が腫れているように見えますが、ピンク色の場所が扁平上皮癌です

線維肉腫

線維組織由来の悪性腫瘍です。線維、いわゆるコラーゲンを作る細胞が癌化したもので体のどこにでも発生しますが、口腔内や皮下組織で良く認められます

口腔内悪性腫瘍ではメラノーマ、扁平上皮癌に次いで発生が多く、局所の浸潤性が問題になります。また、ゴールデン・レトリーバーでは特殊なタイプの線維肉腫が発生することが知られています。

骨肉腫

顎も骨からできていますので骨の悪性腫瘍である骨肉腫も発生します。発生は他のものに比べるとまれで、どちらかというと大型犬に多いと報告されています。

足に発生する骨肉腫に比べると進行は緩やかで転移率も下がると考えられていますが、集中的な治療が必要になることも多い悪性腫瘍です。

エプリス・歯原性腫瘍

歯肉から発生する腫瘍の一種で様々なタイプが存在しますが、犬では線維腫性エプリスや棘細胞性エナメル上皮腫などによく遭遇します。

上記の悪性腫瘍に比べると、その経過は穏やかであることが多いですが、時に大型化するため拡大切除が必要になることがあります

線維腫性エプリスです。見た目だけでは他の病気との区別は付きにくいです

髄外性形質細胞腫

抗体を作る免疫細胞である形質細胞が腫瘍化したもので様々なタイプの腫瘍がありますが、口腔内腫瘍には髄外性形質細胞種としてよく見られます。

骨髄など他の部位に発生する形質細胞腫瘍に比べ口周りにできたものはほとんどが良性の経過を取ります。まれに大きくなりますが外科治療のみで治せることがほとんどです。

比較的良性の経過をとる髄外性形質細胞腫で、切除によってほとんどが完治します。

腫瘍のように見えるが腫瘍でない疾患

歯肉過形成と行って慢性的な歯茎の炎症により歯肉が盛り上がった病変や、潰瘍性口唇炎と言って重度の歯石沈着や歯周病に関連して発生する唇のただれは腫瘍と鑑別が難しい病変です。

ぱっと見では「がん」なのか「良性の病気」か判別がつきません。悪性であった場合、治療は少しでも早い方が好ましいので、診断まで速やかに進める必要があります。また腫瘍に歯周病が混在している事も多いため、その判断には慎重さが求められます。

大型の腫瘍に見えますが、歯周病に起因する過形成という「がん」ではない良性の病気です。

赤くただれ、悪性の腫瘍のように見えますが潰瘍性口唇炎という良性の口内炎です。

ご家族ができること=早期発見のために

どんな悪性腫瘍にも言える事ですが、早期発見が何よりも大切です。しかし口の中の病変は気付かれないまま大型化してしまい、悲しいことに完治困難となってしまう状況が起こり得ます。中々口の中を観察できず口臭がひどくなったため歯石取りを行う事になり、そのタイミングで腫瘍が発見されるパターンもあります。

早期発見のためにできる事は日頃から口腔内を観察する事です。その一番の早道は、おそらく歯磨きの習慣で、些細な変化にも気付きやすくなります。

さらに口を触られる事に慣れていると動物病院の診察時でも詳細な観察が可能となります。また、重度の歯周病はがんの発生率を高めると考えられており、歯磨きによって口腔環境を清潔に保つことは様々な面で有益です。

口腔腫瘍は怖い悪性の病気も多いですが、早期発見・早期治療が何よりも大切で適切な治療で完治も可能です。実際に、口の中や周りの「しこり」やグジュグジュした傷・出血を見つけた場合は、一度獣医師までご相談下さい。

コラムのまとめ

・犬の口は腫瘍が発生しやすく、様々なタイプが存在する

・メラノーマなど極めて悪い腫瘍も発生するため早期発見が重要

・歯周病と腫瘍の判断が付きづらい場合も多いため注意が必要

・早期発見は口腔内を良く観察することからが基本で、歯磨きの習慣が様々な面で有用

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