がん・腫瘍科〈動物がんクリニック名古屋〉

腫瘍認定医とは

獣医腫瘍科認定医とは、日本獣医がん学会が定めた動物のがん診療における専門的知識や診断、治療能力を有する獣医師のことです。腫瘍科認定医には1種と2種、二つの資格があります。1種認定医になるためにはまず2種資格を取得し、その後行われる2回の診断・治療についての筆記・口述試験に優秀な成績を収め合格しなければなりません。

がんの治療には、腫瘍に対する手術・抗がん剤・放射線治療などより専門的な知識が必要です。さらにがんは体のどこにでも発生してしまうため、一般的な内科・外科学だけでなく血液学や脳神経学、病理学など様々な分野に習熟しなければなりません。そのため認定医にはがんに対する深い知識と幅広い一般臨床獣医学の両方が求められ、資格取得は大変難しい物になっています。

実際に、1種認定医の資格を持つ獣医師は全国でも42名(2017年5月現在)しかいません。日本でワンちゃんやネコちゃんを診察する獣医師が約1万5千名、獣医がん学会に所属している獣医師が2千名以上いることを考えると、動物たちのがん診療にとって貴重な存在で、大きな役割を担っていると言えます。

よくあるがんの症状

しこり・イボ

しこりやイボができていた場合、腫瘍の可能性があります。しこりが良性であることも多いのですが、見た目では判断がつかないこともあり注意は必要です。

飼い主様たちが気付ける症状ですので、日頃からスキンシップ時に気にしてあげると早期発見に非常に効果的です。

またしこりは体の表面だけでなく口や耳の中、肛門の周り、指先など様々な場所に発生しますので全身を気にしてあげましょう。

慢性症状

がんは体中全ての内臓や組織に発生する可能性があるため様々な症状を引き起こします。

調子が悪くても、それがすぐに「がん」ということではなく、急性のすぐに治る病気であることがほとんどです。

しかしながら消化器症状や泌尿器症状などなど、どんな体調不良であっても1〜2週間以上続く時や治療していても良くならない時、良くなってもまたすぐに症状が再発してしまう時はしっかり検査をしましょう。

健康診断

犬や猫は体調不良を隠してしまうことも多く、水面下で進行していく「がん」も多いため、気付いた時にはもう手の施しようがないということも少なくありません。

さらに肝臓がんや脾臓の悪性腫瘍、肺がんなど初期には症状を出しにくく、超音波やレントゲン検査などの積極的な検査を行わないと発見しにくい悪性腫瘍も存在しています。

人間と同様、早期発見・早期治療が最も有効な治療になりますので定期的な健康診断を受けましょう。

がんで考えられる症状一覧と各症状の解説

がんの検査

がんの検査には以下のような腫瘍の種類を確定する検査と、腫瘍の広がりを調べる検査があります。それらから腫瘍の進行度(いわゆる「ステージ」)を確認し治療を行います。

STEP
針生検(FNA検査とも)と組織生検(病理検査)

皮膚や内臓にできた塊の一部から細胞や組織をとってきて、どのような細胞が増えているかを顕微鏡で検査していきます。

塊を作る病変には炎症や腫瘍など色々な種類があり、この検査所見によってがんかどうかを判断し病変の種類を確定します。

同じ臓器であっても、できた腫瘍によって対応が異なることも多いため、最も大事で基本的ながんの検査です。

STEP
画像検査(X線検査・超音波検査・CT・MRIなど)

それぞれ体の内側の病変を検出していきます。胸部や腹部の内臓や骨、神経、筋肉などにがんが発生していないか、病変の広がりはどの程度なのか、がんがリンパや他の臓器に転移していないか、など様々な機械を用いて検査していきます。

STEP
血液検査

がんは全身に発生し、様々な形で体に害を及ぼす可能性があるため、全身状態のチェックとして血液検査が必要になります。抗がん剤の治療を行う時も、投薬や治療効果の判断に必須となります。

その他

腫瘍の種類によっては、内視鏡検査や尿検査、特殊なホルモン値の測定や遺伝子変異検査など様々な検査で診断していきます。

治療内容

がんの治療は大きく分けると、がんに対する積極的治療と、がんに伴う様々な体調異常をケアする支持療法に分けられます。

積極的な治療には、人の医療と同様にがん治療の3本柱として、「外科療法」、「化学療法」、「放射線療法」があり、これらを組み合わせがんの根治やコントロールを目指します。

「支持療法」とは、がん治療のすべての段階に考慮される治療です。積極的治療を支えるための治療や、治療が難しい段階ながらも残された時間をよりよく過ごすための緩和ケアなどがこれに当たります。

すべての治療にはメリットとデメリットがあり、こちらでさらに説明します。

外科療法

いわゆる手術での治療です。外科手術によってがんを切除し、必要に応じて周辺の組織やリンパも取り除きます。

メリットとして、手術で一気にがんを切除できるため、根治につながることも多い治療法になります。

その一方で、体にメスを入れるため他の治療に比べ負担が大きくなりやすく、状況によっては内臓や身体の機能が一部損なわれてしまいます。

メリット

一気にがんを取り除ける、根治の可能性が最も高い

デメリット

手術や麻酔の負担、状況によっては合併症や機能障害が起こる

化学療法

抗がん剤(点滴・注射・内服)での治療です。薬の力でがん細胞を死滅させ、増殖を抑えます。抗がん剤には多くの種類があり、がんの種類や体調によって使い分けます。メリットとして、薬が全身を巡るため転移してしまったがんにも効果がある唯一の治療法になります。その一方で、発熱や下痢・嘔吐などの消化器症状、脱毛などの副作用が起こることがあります。しかし、近年の支持療法の発展により、大幅な副作用が認められることはまれになりました。

メリット

全身治療になる、転移病変にも効果がある

デメリット

がんの種類によっては効果が乏しい、副作用が出る可能性がある

放射線療法

放射線を当てることでがん細胞を局所的に死滅させます。

獣医学の進歩によって、より正確で効果の高い放射線治療が可能になりつつあります。

メリットとして、手術が難しい脳や鼻の中なども治療できることや、外科手術のように体を傷つける必要がない点が挙げられます。

その一方で、治療設備が限られること(ご紹介での治療になります)、放射線特有の皮膚炎などの副作用があること、動物の場合治療に麻酔が必要となることが挙げられます。

メリット

手術が難しい場所でも治療可能なことがある、体の機能や形態を温存できる

デメリット

治療施設が限られる、放射線治療の副作用(皮膚炎など)、治療に麻酔が必要

支持療法

支持療法によって腫瘍のために生じる様々な不調を改善し、体調の維持を目指します。

上記のがんに対する直接的な治療ではなく、いわば「がん」にかかった動物たちのサポートケアです。

栄養療法

がんにかかると吐き気や下痢、食欲不振など栄養面での問題もしばしば起こります。それらに対し胃腸薬や食欲増進剤を使い、また皮下点滴などでサポートします。さらにがんにとってより適した食事を一緒に考えていくことや、チューブなどを用いた強制給餌など、ご家族の支えも重要になります。

緩和ケア・痛みの管理

悪性腫瘍に伴う痛みを治療していきます。私たちが日頃使う頭痛薬のような作用の軽いものから麻薬系のより強力なものまで、がんのステージに応じて使用していきます。より良い形で、ご家族と日々を過ごせるよう積極的に痛みの治療を行います。

飼い主さまの気持ちを尊重した治療を提供します

以上の治療を組み合わせ、その子その子に応じたがんの治療を行っていきます。獣医学の発展により、完治が望めるがんも増えてきました。

また難しい状況であっても、よりよい形で大好きなご家族と過ごす方法もきっとあるはずです。飼い主様によっては治療の考え方が異なるのも当然です。

これから起こるであろうこと、何ができるのか、通院のことや費用のこと、様々な悩みに対して我々獣医師が全力でサポートします。大切なワンちゃん、ネコちゃんのため、ご家族にとって最適な道を一緒に考えていきましょう。