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犬の膀胱や尿道、前立腺には、癌や肉腫など、さまざまな悪性腫瘍が発生しますが、その中で最も多いのが「尿路上皮癌(膀胱癌・移行上皮癌)」です。
比較的高齢の犬で多く認められ、スコティッシュ・テリアなどのテリア犬種やシェットランド・シープドッグ、ビーグルなど特定の犬種で発生しやすいことも知られています。もちろん、どの犬種でも発症する可能性があるため注意が必要です。また、尿路上皮癌以外の腫瘍は情報が少なく、高齢犬では腫瘍のリスクを考える必要があります。
近年、当院でも血尿や頻尿をきっかけに検査を行い、膀胱腫瘍・膀胱癌が見つかるケースが増えています。
膀胱炎や尿路結石と非常によく似た症状を示すため、発見が難しいことも少なくありません。
また、進行すると尿が出なくなる「尿路閉塞」を引き起こし、短時間で命に関わる状態になることもあるため注意が必要な病気です。
当院では、超音波検査・CT検査・尿検査・遺伝子検査などを組み合わせながら診断を行い、病変部位や進行度に応じて内科治療・外科治療の両面から治療方針を検討しています。
膀胱癌では、このような症状が認められることがあります。
※これらの症状は膀胱炎や尿路結石でも認められるため、必ずしも腫瘍とは限りません。
写真は、すべて膀胱癌のワンちゃんで認められた血尿です。
薄く血が混じるもの、血餅という血の塊が排出されているもの、茶褐色・鮮血の色のものまで、さまざまな程度で認められます。




これらの症状は膀胱炎や尿路結石でも認められるため、必ずしも腫瘍とは限らず、実際に「膀胱炎と思って治療していたら膀胱癌だった」というケースも少なくありません。また「膀胱癌と診断され当院を受診したものの、実際には膀胱癌でなく、別の膀胱疾患」であったワンちゃんも一定数います。
特に次の場合、より詳しい検査と慎重な判断が必要になることがあります。
犬の膀胱腫瘍(膀胱癌・尿路上皮癌など)で最も注意しなければならない合併症の一つが「尿路閉塞」です。
尿路閉塞とは、腫瘍によって尿の通り道が塞がれてしまい、正常に排尿できなくなる状態を指します。
尿が体の外へ排出できなくなると、体内に老廃物やカリウムが蓄積し、腎不全や尿毒症を引き起こします。そのまま放置すると数日以内に命に関わる状態となるため、早急な対応が必要です。
※図はタップで拡大できます



膀胱癌が尿道へ広がると、尿道が狭くなり排尿が困難になります。

尿道閉塞を起こした患者さんでは、次の症状が認められます。
特に「何度もトイレに行くのに尿が出ていない」という場合には緊急性が高く、速やかな受診が必要です。
尿道閉塞が認められた場合には、まず尿道カテーテルを挿入して尿の通り道を確保し、全身状態の改善を図ります。しかし、腫瘍による狭窄が重度の場合にはカテーテルの挿入自体が困難なこともあり、その場合には外科的な対応が必要になることがあります。
膀胱癌は尿管の出口付近に発生することが多く、尿管閉塞を引き起こす場合があります。
特に両側の尿管が閉塞した場合には、急速に腎不全が進行するため注意が必要です。
一方で、片側だけの尿管閉塞では症状がほとんど認められないこともあります。そのため定期的な超音波検査を行うことで、無症状の段階で発見できる場合があります。


尿検査では、目に見えない血尿や炎症所見を確認することができます。また尿石症や細菌感染などその他の病気の特定にも重要な検査です。
比較的簡単に実施できる重要な検査ですが、初期段階では異常がはっきり認められないこともあります。そのため、尿検査だけで膀胱癌を否定することはできません。
超音波検査では、膀胱内のしこりや尿管や尿道周囲の異常を確認することができます。
正常な膀胱の超音波検査画像(左)と、膀胱癌(尿路上皮癌)が疑われ、実際に診断された症例の超音波検査画像(右)。


正常な膀胱(左)では膀胱壁は薄く、内腔面はなめらかに観察されます。一方、膀胱癌(右)では黄色矢印で示すような小さな病変が確認されることがあります。
超音波検査では、尿の貯まり具合や病変の部位にもよりますが、1cm以下の小さな病変を発見できる場合もあります。
左図のように膀胱の内側へキノコ状に盛り上がるタイプ(乳頭状)や、右図のように膀胱の壁が広い範囲(黄矢印)で分厚くなるタイプ(非乳頭状)など、さまざまな見え方をすることがあります。


多くの症例で有用な超音波検査ですが、炎症性変化との区別が難しい場合もあり、超音波検査だけで確定診断できるとは限りません。また尿道や前立腺など骨盤の骨に囲まれた部分は工夫して検査しなければ病変の確認が困難です。
当院では必要に応じてCT検査なども組み合わせながら、病変の広がりや閉塞リスクなどを評価しています。
膀胱癌そのものの評価には超音波検査が有用であり、レントゲン検査で腫瘍自体を確認できることは稀です。
その一方で、膀胱癌は肺やリンパ節、骨などへ転移することがあるため、全身評価のためにレントゲン検査やCT検査が重要になります。

こちらは膀胱癌(尿路上皮癌)が骨に転移した症例のレントゲン画像です。
反対側(画像内・右側)では骨の輪郭が明瞭に確認できますが、黄色矢印で示した左側部分では骨のラインが不鮮明になり、骨が破壊されるような変化(骨融解)が認められます。
胸部や腹部のレントゲン検査やCT検査による全身評価が重要になります。
特にCT検査では、次のような多くの重要な情報を得ることができます。

こちらは膀胱癌(尿路上皮癌)が骨に転移した症例のレントゲン画像です。
反対側(画像内・右側)では骨の輪郭が明瞭に確認できますが、黄色矢印で示した左側部分では骨のラインが不鮮明になり、骨が破壊されるような変化(骨融解)が認められます。
胸部や腹部のレントゲン検査やCT検査による全身評価が重要になります。 特にCT検査では、次のような多くの重要な情報を得ることができます。
※画像はタップで拡大できます

膀胱内に腫瘍性病変(黄色矢印)が確認されます。CT検査では、腫瘍そのものの位置や広がりだけでなく、尿管や尿道との位置関係、リンパ節・肺・骨などへの転移の有無を評価することができます。
上は体を横から見た断面(矢状断)、右は体を輪切りにした断面(横断像)で、病変を立体的に把握することができます。
外科手術を検討する場合には、特に重要な検査となるため、その場合はCT施設へ速やかに紹介・連携し治療法を考えていきます。


膀胱内に腫瘍性病変(黄色矢印)が確認されます。CT検査では、腫瘍そのものの位置や広がりだけでなく、尿管や尿道との位置関係、リンパ節・肺・骨などへの転移の有無を評価することができます。
上は体を横から見た断面(矢状断)、右は体を輪切りにした断面(横断像)で、病変を立体的に把握することができます。

外科手術を検討する場合には、特に重要な検査となるため、その場合はCT施設へ速やかに紹介・連携し治療法を考えていきます。
最終的な診断には、腫瘍細胞や組織を採取して評価を行います。
ただし、膀胱癌は腫瘍細胞が播種・定着しやすい特徴があるため、一般的な腫瘍のように体表から針を刺して検査することは推奨されず、むしろ禁忌とされています。
検査方法には注意が必要であり、病変部位や状態に応じて慎重に選択する必要があります。通常は尿道口からカテーテルを挿入し、そこから組織を吸引する生検方法「カテーテル吸引検査」で行われます。検査の特性上、腫瘍組織が刺激されるため、血尿などの症状が悪化することがありますが、多くは一過性であり、また多くのわんちゃんは麻酔で実施できます。
この検査は膀胱癌の確定診断や治療方針の決定にとても重要です。

尿道から膀胱内へカテーテルを慎重に進めます。

エコーで確認しながら、腫瘍にカテーテルの吸引口を摂食させます。

吸引により、腫瘍の細胞を採取します。

カテーテルをゆっくり抜去します。

採取した細胞を病理検査・遺伝子検査に提出します。
カテーテル吸引検査で採取された細胞は、スライドガラスに広げて顕微鏡で確認する細胞診や、採取された細胞を遠心分離で集めて固め、病理検査として評価するセルブロック検査などに用いられます。

上図は膀胱癌(尿路上皮癌)のカテーテル吸引検査で得られた細胞診像。悪性を疑う異型細胞が多数確認されますが、診断には他の検査結果も含めた総合的な判断が必要です。

カテーテル吸引検査で採取された細胞を用いたセルブロック検査では、採取した細胞を集めて固定し、病理標本として評価します。
尿路上皮癌では、異型性が強い、いわゆる「顔つきの悪い」腫瘍細胞が多数確認されることがあり、その所見によって診断につながります。
一方で、カテーテル吸引検査には限界もあります。検査で悪性細胞が認められなかった場合でも、それだけで膀胱癌を完全に否定することはできません。腫瘍細胞が十分に採取できていない可能性があるためです。
そのため、超音波検査やCT検査、遺伝子検査などの結果も合わせて総合的に判断し、必要に応じてカテーテル吸引検査を再度行うこともあります。
近年では、尿中の細胞から遺伝子異常(BRAF変異・HER2遺伝子コピー数異常など)を検出する検査も行われるようになり、診断補助として非常に有用になっています。
膀胱癌の治療方法は、 発生部位や進行度などによって大きく変わります。
病変の発生部位や臨床病期(ステージ)に基づき、多角的な治療アプローチを最適に組み合わせ、管理します。
様々な治療方法が存在しますが、その子の状況とご家族のお考えに合わせ、適切な治療法を選択することが最も重要です。近年では、分子標的薬など新しい治療選択肢も増えてきており、難しい状況から長期間病勢をコントロールできることもあります。
当院では、病変部位や進行度を十分に評価しながら、生活の質(QOL)も重視した治療方針をご相談しています。
犬の膀胱癌(尿路上皮癌)の治療において、非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)は非常に重要な役割を担っています。一般的には「痛み止め」として知られている薬ですが、膀胱癌では痛みや炎症を抑えるだけでなく、腫瘍の増殖を抑制する作用も期待されています。
これまでに多くの研究が行われており、NSAIDsの使用によって病気の進行を遅らせ、血尿や頻尿などの症状を改善できる可能性が報告されています。また、人医療でも広く使用されている薬剤群であり、比較的体への負担が少なく、継続しやすい治療であることも大きな特徴です。
犬の膀胱癌では、これまでピロキシカムやフィロコキシブなどの薬剤が使用されており、単独で用いられるだけでなく、抗がん剤や分子標的薬など他の治療法と組み合わせて使用されることも少なくありません。
さらに、NSAIDsは本来の作用である鎮痛効果により、排尿時の痛みや違和感を軽減し、血尿や頻尿などの症状改善にも役立つことがあります。そのため、生活の質(QOL)を維持する上でも非常に重要な治療であり、使用可能な状況であれば、多くの患者さんで治療の中心となる薬剤の一つです。
当院では、全身状態や腎機能などを確認しながら、その子に最も適した薬剤を選択し、長期的な管理を行っています。実際には、NSAIDsのみで長期間安定した状態を維持できる患者さんもいれば、他の治療との併用が必要になる患者さんもいます。
近年、犬の膀胱癌(尿路上皮癌)の治療では、「分子標的薬」と呼ばれる新しいタイプの抗腫瘍薬が使用されるようになってきました。
分子標的薬は、がん細胞の増殖や血管新生に関わる特定の分子を標的として作用する薬剤であり、従来の抗がん剤とは異なる仕組みで腫瘍の成長を抑制します。
現在、犬の膀胱癌ではトセラニブ、ラパチニブ[*]、ソラフェニブ、モガムリズマブなどの薬剤が使用・検討されることがあり、近年は研究報告も増えてきています。

犬の尿路上皮癌(膀胱癌)で使用を検討する分子標的薬の一例です。病状や検査結果、副作用、費用などを考慮しながら薬剤を選択します。
これらの薬剤は、すべての患者さんに同じように効果が認められるわけではありませんが、中には腫瘍の縮小や長期間の病勢安定が得られる症例も報告されています。
一方で、分子標的薬の目的は腫瘍を完全に消失させることではなく、病気の進行を抑えながら生活の質(QOL)を維持することにあります。そのため、消炎鎮痛薬(NSAIDs)や抗がん剤など他の治療法と組み合わせて使用することも少なくありません。
また近年では、一部の薬剤について腫瘍に認められる遺伝子異常と治療効果との関連が明らかになってきています。例えばHER2遺伝子異常など、一部の遺伝子異常は治療方針を考える上で重要な情報となる場合があります。
ただし、遺伝子異常の有無だけで治療効果が決まるわけではありません。同じ遺伝子異常を持つ患者さんでも反応には個体差があり、逆に異常が認められなくても効果が期待できる場合があります。そのため当院では、遺伝子検査の結果だけではなく、腫瘍の進行度や全身状態も含めて総合的に治療方針を判断しています。
分子標的薬の多くは内服薬であり、自宅で治療を継続できることも大きな利点です。また、従来の抗がん剤と比較すると重度の副作用は少ない傾向があります。
しかし、副作用が全くないわけではありません。食欲不振や下痢などの消化器症状に加え、高血圧や蛋白尿など定期的な検査が必要となる副作用も知られています。また比較的新しい治療薬であるため、今後新たな知見が蓄積される可能性もあります。
さらに、分子標的薬は高価な薬剤が多く、長期間継続する場合には経済的な負担が問題となることもあります。
そのため当院では、期待できる効果と副作用、治療費用のバランスを十分に検討しながら、それぞれの患者さんに適した治療法をご提案しています。
実際には、分子標的薬によって長期間良好な状態を維持できる患者さんもいれば、他の治療法を組み合わせた方が良い患者さんもいます。近年の獣医腫瘍学の進歩により治療選択肢は増えてきており、病状に応じた個別化治療が可能になってきています。
尿道腫瘍による尿路閉塞を、ラパチニブ治療で長期に管理できた姫ちゃんの症例紹介。
犬の膀胱癌(尿路上皮癌)では、従来からさまざまな抗がん剤(殺細胞薬)が使用されてきました。
近年は分子標的薬という新しい治療選択肢が登場していますが、抗がん剤治療は現在でも重要な治療法の一つであり、多くの患者さんで選択肢となります。
抗がん剤は、細胞分裂の盛んながん細胞を攻撃することで腫瘍の増殖を抑える治療です。これまでにシスプラチン、ミトキサントロン、ビンブラスチン、カルボプラチン、クロラムブシルなど様々な薬剤が使用されており、それぞれ期待される効果や副作用の傾向が異なります。

写真は、犬の尿路上皮癌(膀胱癌)で使用を検討する抗がん剤(殺細胞薬)の一例です。病状や全身状態、腎機能、副作用、治療費用などを考慮しながら、患者さんごとに薬剤を選択します。投与方法も薬剤によって異なり、点滴によって投与するものや内服薬として使用するものがあります。
現在までに多くの研究が行われていますが、どの抗がん剤がすべての患者さんにとって最良であるかは明らかになっていません。そのため、腫瘍の状態や進行度、全身状態、併発疾患などを総合的に評価しながら治療薬を選択する必要があります。
抗がん剤治療では、消化器症状(食欲不振、嘔吐、下痢など)や骨髄抑制と呼ばれる副作用が認められることがあります。骨髄抑制が起こると白血球が減少し、一時的に感染症にかかりやすくなる場合があります。そのため、安全に治療を継続するためには適切な投与量の設定と定期的な血液検査によるモニタリングが重要になります。当院では患者さんごとの体調や検査結果を確認しながら、できる限り副作用を抑えた治療を心がけています。また、分子標的薬と比較すると薬剤費を抑えられる場合もありますが、定期的な検査や副作用予防のための治療が必要になることもあり、決して経済的負担が少ない治療ではありません。
抗がん剤治療は単独で使用されることもありますが、消炎鎮痛薬(NSAIDs)や分子標的薬など他の治療法と組み合わせることで、より良い治療効果が期待できる場合もあります。当院では、それぞれの患者さんの病状やご家族のご希望を踏まえながら、治療効果と生活の質(QOL)のバランスを考えた治療方針をご提案しています。
犬の膀胱癌(尿路上皮癌)をはじめとする膀胱腫瘍は、外科手術による治療が検討されることがあります。しかし、膀胱癌は他の腫瘍と比較して手術が難しい腫瘍の一つです。
その理由の一つが、腫瘍細胞が播種(はしゅ)しやすい性質を持つことです。播種とは、腫瘍細胞が周囲へ飛び散り、新たな場所に定着してしまう現象を指します。そのため、手術では腫瘍を露出させたり傷つけたりしないよう、慎重な操作が求められます。
さらに、膀胱癌の多くは膀胱三角部と呼ばれる場所に発生します。この部分には尿管や尿道が集中しており、排尿機能を維持する上で非常に重要な構造が存在します。そのため、十分な切除範囲を確保しながら腫瘍を取り除くことが難しい場合が少なくありません。
腫瘍の発生部位や広がりによっては、膀胱や尿路を広範囲に切除する手術(膀胱全摘・尿路全摘術)が必要になることがあります。こうした手術によって腫瘍そのものを取り除ける可能性があることは大きなメリットですが、一方で膀胱としての機能を失うため、自力で尿を貯めることができなくなります。
正常な雌犬の尿路模式図(左)と、膀胱全摘・尿路再建術の一例(右)


外科手術で膀胱や尿道を切除し、尿管を膣に吻合することで尿を体外へ排出できるようにします。術式には尿管を体表へ開口する方法など複数の選択肢があり、腫瘍の位置や広がり、全身状態によって適応を慎重に判断します。膀胱を摘出した後は尿を貯めることができなくなるため、オムツやマナーパッドによる管理が必要になります。
その結果、術後は尿が持続的に排出される状態となるため、マナーパッドやオムツによる管理が必要になります。
正常な雄犬の尿路模式図(左)と、膀胱全摘・尿路再建術の一例(右)


外科手術で膀胱や前立腺、尿道などを切除し、症例によっては陰茎を含む尿路を広く切除します。その後、尿管を包皮粘膜に吻合することで、尿を体外へ排出できるようにします。術式には、尿管を腹壁など体表側へ開口する方法など複数の選択肢があり、腫瘍の位置や広がり、全身状態によって適応を慎重に判断します。膀胱を摘出した後は尿を貯めることができなくなるため、オムツやマナーパッドによる管理が必要になります。
また、膀胱癌は局所病変だけでなく全身性の病気として考える必要があります。たとえ手術によって目に見える腫瘍を取り除くことができたとしても、それだけで完治できるとは限りません。そのため、多くの場合は消炎鎮痛薬(NSAIDs)や分子標的薬などの補助治療を併用しながら管理していきます。
さらに、このような手術は侵襲が大きく、術後の尿路閉塞や感染症など様々な合併症が生じる可能性があります。そのため、すべての患者さんに推奨される治療ではなく、適応について慎重に検討する必要があります。
近年では、診断直後から外科手術を選択するケースはそれほど多くありません。まずは消炎鎮痛薬(NSAIDs)や分子標的薬などによる内科治療を行い、その後病気の進行によって尿路閉塞が生じた場合や、他の治療だけでは生活の質(QOL)の維持が難しくなった場合に手術を検討する流れになることが多いです。
一方で、尿路閉塞は命に関わる緊急事態であり、その改善が期待できる数少ない選択肢の一つが外科手術です。
当院では、腫瘍の発生部位や進行度、全身状態、ご家族のご希望などを総合的に評価しながら適応を慎重に判断しています。すべての患者さんに手術を勧めるわけではありません。外科治療をご希望の場合には、それぞれのメリットとデメリットを十分にご説明した上で治療方針をご相談いたします。
尿路閉塞を乗り越え、再び散歩へ。

尿路閉塞を乗り越え、再び散歩へ。
尿路閉塞が発生した場合には、できるだけ早く尿の流れを回復させることが重要です。
治療方法は閉塞部位や進行度によって異なりますが、外科手術による尿路変更術を検討することがあります。
また近年では、ステントと呼ばれる特殊な管を設置し、閉塞した尿路を再び通過できるようにする治療法も行われています。
尿道閉塞に対しては、緩和治療として尿道カテーテルを留置し、そのまま生活していただく方法を選択することもあります。特に全身状態や腫瘍の進行状況によっては有効な選択肢となりますが、長期間の管理では膀胱炎や尿路感染症が避けられないことも多く、定期的なチェックが必要になります。
つまり、これらの治療にはそれぞれ利点と欠点があり、腫瘍の位置や進行度、全身状態によって適応が異なります。
当院では、緊急性の有無を迅速に判断するとともに、患者さんごとに最適な治療方法をご提案しています。尿路閉塞は膀胱癌の経過中に起こりうる重大な合併症ですが、早期に発見し適切な対応を行うことで状態の改善や生活の質(QOL)の維持が期待できます。
犬の膀胱癌(尿路上皮癌)では、腫瘍そのものに対する治療だけでなく、生活の質(QOL)を維持するための緩和治療も非常に重要です。緩和治療とは、病気による苦痛や不快な症状をできるだけ軽減し、その子らしい生活を続けられるようにサポートする治療です。
特に膀胱癌では、尿路閉塞への対応が重要になります。尿道や尿管が閉塞すると命に関わる状態になるため、尿道カテーテルの設置や外科的な処置によって排尿路を確保することがあります。
また、膀胱炎や尿路感染症の管理、頻尿や血尿、排尿時の痛みなどの症状を和らげることも大切な治療の一つです。病気が進行した場合には、骨転移による痛みや、肺転移による呼吸器症状が認められることがあります。その際には鎮痛薬や補助治療を用いながら、できる限り快適に過ごせるよう治療を行います。
さらに、腎機能の低下や腫瘍の進行によって食欲が低下することもあります。そのような場合には点滴治療や食欲管理などを行いながら全身状態の維持に努めます。
緩和治療は「何もしない治療」ではありません。腫瘍そのものに対する治療と並行して行われる重要な治療であり、患者さん一人ひとりの状態に合わせて内容も変わります。
当院では、病気だけではなく患者さんやご家族の生活にも配慮しながら、その子らしい生活を少しでも長く維持できるよう治療方針をご相談しています。
膀胱癌(尿路上皮癌)は、診断や治療方針の判断が難しい病気です。患者さんごとに病気の進行度や症状は異なり、またご家族が大切にしたいこともそれぞれ違います。
そのため、すべての患者さんに共通する「正解の治療」はありません。
積極的な治療によって病気と向き合うことを選択されるご家族もいれば、生活の質を優先しながら穏やかな時間を大切にされるご家族もいらっしゃいます。
私たちは、どちらが正しいという考え方はしていません。
大切なのは、ご家族が十分に病気を理解し、その子にとって納得できる選択をすることだと考えています。
当院では、検査結果や治療選択肢をできる限り分かりやすくお伝えし、ご家族と一緒に考えながら治療方針を決めていきます。
私たちは、治療そのものだけではなく、ご家族が「この子と一緒に過ごせてよかった」と思える時間を少しでも長く支えることも獣医療の大切な役割だと考えています。

血尿、頻尿、尿が出にくい、膀胱炎を繰り返しているなどの尿路症状がある場合や、膀胱腫瘍・尿路上皮癌の診断や治療方針でお悩みの場合は、名古屋市千種区の自由ヶ丘動物病院 動物がんクリニック名古屋へご相談ください。