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尿路閉塞を乗り越え、再び元気に散歩へ
~膀胱全摘・尿路変更術を実施したジャッキーちゃん~

ジャッキーちゃんは14歳のスピッツの男の子です。
他院で〝尿道近くに発生した膀胱腫瘍〟と診断され、当初は尿路上皮癌・膀胱癌が疑われて、分子標的薬による治療を受けていました。しかし、腫瘍は徐々に進行し、ついには尿道が閉塞して自力で排尿できなくなってしまいました。
何とか助ける方法はないでしょうか。
そのような思いで飼い主様が当院を受診されました。
来院時のジャッキーちゃんは、すでに自力で排尿することができず、1日に何度も動物病院へ通い、その都度カテーテルで尿を抜いてもらっている状態でした。さらに膀胱内では著しい感染と出血が起こっており、元気や食欲も低下し、一刻を争う非常に厳しい状況でした。

ジャッキーちゃんの治療開始前の血尿
尿には多量の血液が混じっており、膀胱腫瘍からの出血によって貧血も認められる状態でした。
まず当院では尿道カテーテルを設置し、排尿路を確保するとともに、点滴や抗生剤などによる集中的な支持療法を開始しました。
幸い全身状態は徐々に改善していきましたが、超音波検査では巨大な膀胱腫瘍が確認され、すでに分子標的薬による治療も行われていたことから、内科治療のみで自力排尿を回復させることは困難であると判断しました。

ジャッキーちゃんの膀胱の超音波検査画像
黄色矢印で示すように、膀胱の中を大きく占める腫瘍が確認されます。腫瘍が非常に大きく、尿を貯めるスペースがほとんど残っていない状態でした。
飼い主様と何度も相談を重ねた結果、根本的に尿の通り道を確保するため、膀胱全摘・尿路全摘および尿路変更術を行うことになりました。
※図はタップで拡大できます

ジャッキーちゃんの手術術式模式図
膀胱・前立腺・尿道を含む尿路を広範囲に切除(膀胱尿路全摘)し、左右の尿管を包皮粘膜へ吻合しました。尿路再建術では、吻合部の裂開や狭窄、感染、縫合部のトラブルなどに注意が必要であり、高度な技術と慎重な術後管理が求められます。
手術では、腫瘍と膀胱・尿路をすべて摘出し、左右の尿管を包皮粘膜へ開口させる尿路変更術を実施しました。膀胱腫瘍は血流が非常に豊富で出血しやすく、さらに尿管は非常に細いため、尿路変更術は繊細な操作の連続となります。
手術は長時間に及びましたが、ジャッキーちゃんも最後まで頑張ってくれ、無事に腫瘍を摘出することができました。

摘出した腫瘍の病理組織検査画像
ジャッキーちゃんの腫瘍は、犬の膀胱腫瘍で多い尿路上皮癌ではなく、比較的まれな肉腫というタイプの悪性腫瘍でした。
病理検査により腫瘍の種類や悪性度を確認し、外科的に腫瘍を切除できたことを踏まえて、その後の経過観察を行いました。
病理検査の結果、ジャッキーちゃんの腫瘍は「肉腫」という比較的まれなタイプであることが分かりました。このタイプの腫瘍では、現在のところ分子標的薬や抗がん剤の有効性は十分に分かっておらず、外科手術が最も重要な治療であったと考えられました。
手術が無事に終わった後も、入院中は慎重な管理が必要でした。特に、尿管を吻合した部分に問題が起きていないか、尿が十分に排出されているか、感染や炎症の徴候がないかを確認しながら、些細な変化も見落とさないように注意深く経過を観察しました。
飼い主様も遠方にも関わらず毎日のようにお見舞いに来てくださり、その姿はジャッキーちゃんにとって大きな力になっていたと思います。日を追うごとに少しずつ元気を取り戻し、そして無事に退院の日を迎えることができました。
長い入院生活の中でも、ご家族の支えを受けながら本当によく頑張ってくれました。


左:入院生活にも少しずつ慣れ、スタッフにも穏やかな表情を見せてくれるようになりました。
右:飼い主様の面会後、入口の方を見つめるジャッキーちゃん。
膀胱を摘出すると尿を貯めることができなくなるため、術後はオムツによる管理が必要になります。また、尿路感染症のリスクを減らすためには、毎日の丁寧なケアが欠かせません。
ジャッキーちゃんの飼い主様は、術後の管理について熱心に学び、毎日とても丁寧にケアを続けてくださいました。記事作成時点で術後約1年が経過していますが、このケアのおかげで大きな合併症もなく、元気に毎日の生活を送り、大好きだった散歩も楽しめるまで回復しています。

術後はオムツでの管理が必要
膀胱を摘出した後はオムツでの管理が必要になりますが、飼い主様が日々丁寧にケアしてくださっているおかげで、大きな合併症もなく順調に経過しています。
もちろん、このような手術はすべての患者さんに適応できるものではありません。腫瘍の種類や広がり、全身状態、ご家族の希望を踏まえて、慎重に判断する必要があります。
私たちは、この手術が「腫瘍を切除できたこと」だけで成功だったとは考えていません。
ジャッキーちゃんが再びご家族と穏やかな日常を過ごし、笑顔で散歩へ行けるようになったことこそ、この治療の一番大きな意味だったと思っています。

本当に良かったね、
ジャッキーちゃん。
