尿道腫瘍による尿路閉塞をラパチニブ治療で長期管理できた症例

尿道腫瘍による尿路閉塞を
ラパチニブ治療で長期管理

~ 姫ちゃんの症例 ~

尿路閉塞をラパチニブ治療で長期管理できた:姫ちゃんの写真
姫ちゃん
症例のポイント
  • 尿道腫瘍により排尿困難が進行していた症例 
  • 尿道腫瘍による排尿障害に伴い、腎盂・尿管の拡張も認められ、早急な治療判断が必要な状態 
  • 分子標的薬ラパチニブにより排尿状態が改善し、1年以上穏やかな生活を維持できました
  • Mix犬
  • 13歳
  • 体重5kg
目次

頻尿・尿が出にくい…尿道腫瘍を認めるまで

姫ちゃんは13歳、体重5kgのMix犬の女の子です。

少しずつ頻尿が認められるようになり、その後、尿が出にくい様子や吐き気もみられるようになったため、かかりつけ動物病院を受診されました。検査の結果、尿道付近の異常が疑われ、当院へご紹介いただきました。

当院で検査を行ったところ、尿道壁が著しく肥厚しており、尿道腫瘍が強く疑われました。また、尿道が狭くなることで尿道閉塞を起こし始めている状態でした。さらに尿の流れが妨げられることで腎盂の拡張も認められ、放置すれば腎機能の悪化や尿毒症につながる可能性がある、非常に注意が必要な状況でした。

初診時の超音波検査画像

※画像はタップで拡大できます

超音波検査画像:尿道壁に著しい肥厚が見られる、腫瘍性病変が広がっている様子が確認されます
尿道壁の著しい肥厚
超音波検査画像:排尿障害による腎盂と尿管の拡張が認められる
排尿障害・腎盂と尿管の拡張
(左)

膀胱から尿道にかけて、黄色矢印で示すように尿道壁が著しく肥厚し、腫瘍性病変が広がっている様子が確認されます。病変部には高エコー領域や血流シグナルも認められました。 

(右)

尿道腫瘍による排尿障害により、腎盂と尿管の拡張が認められました。尿の流れが妨げられ、腎機能への影響も懸念される緊急性の高い状態でした。 

腫瘍細胞の細胞診画像:通常の細胞とは異なる形をした腫瘍細胞が多数認められる
腫瘍細胞の細胞診画像

尿中に認められた腫瘍細胞の細胞診画像。

通常の細胞とは異なる形をした腫瘍細胞が多数認められ、尿路上皮癌の診断につながる重要な所見でした。

ラパチニブによる治療を開始

姫ちゃんの年齢、全身状態、腫瘍の発生部位、そしてご家族のお考えを踏まえて治療方針を相談し、分子標的薬であるラパチニブによる治療を開始することになりました。

治療開始後、少しずつ排尿状態は改善していきました。画像検査でも腫瘍の縮小が確認され、尿が通りやすい状態へ改善していきました。幸い、ラパチニブによる目立った副作用もなく、ご自宅での内服治療を継続することができました。

膀胱の超音波検査画像(ラパチニブ治療前後)

※画像はタップで拡大できます

治療開始前:尿道壁の著しい肥厚と腫瘍性変化が認められる
治療前:尿道壁の著しい肥厚と
腫瘍性変化
ラパチニブ治療開始後:尿道壁の肥厚が大きく改善
治療後:尿道壁の肥厚が
大きく改善

治療前(左)には尿道壁の著しい肥厚と腫瘍性変化が認められ、排尿障害が進行していました。ラパチニブ治療後(右)には尿道壁の肥厚が大きく改善し、排尿状態も安定しました。

その後、姫ちゃんはさらに状態が安定し、尿もスムーズに出るようになりました。治療前には尿路閉塞によって命に関わる可能性もある状況でしたが、治療によって1年以上もの長い期間、元気に、そして穏やかに日常生活を送ることができました。

腎臓の超音波検査画像(ラパチニブ治療前後)

※画像はタップで拡大できます

治療開始前:尿道腫瘍による排尿障害に伴い、腎盂と尿管の拡張が認められ、腎臓への負担が懸念される状態
治療前:腎盂と尿管の拡張が
認められる
治療後:腎盂・尿管の拡張の改善、尿の流れが回復している
治療後:腎盂・尿管の拡張の改善、尿の流れが回復している

ラパチニブ治療前後の腎臓の超音波検査画像です。
治療前(左)には尿道腫瘍による排尿障害に伴い、腎盂と尿管の拡張が認められ、腎臓への負担が懸念される状態でした。
治療後(右)には尿道病変の改善に伴って腎盂・尿管の拡張も改善し、尿の流れが回復していることが確認されました。

ご家族の献身的な支えと、穏やかな時間

もちろん、毎日の投薬、定期的な通院、体調を崩した時の介護は、決して簡単なことではありません。姫ちゃんが良い状態を長く維持できた背景には、ご家族の献身的な支えがありました。

最終的には尿道腫瘍の進行により亡くなりましたが、姫ちゃんは最後まで排尿の苦痛に大きく悩まされることなく、ご家族と穏やかな時間を過ごすことができました。

後日、ご家族からは、治療によって姫ちゃんと穏やかで幸せな時間を過ごすことができたと、温かいお言葉をいただきました。

来院当初はかなり痩せており、春を迎えることも難しいかもしれないと感じられていたそうですが、治療開始後は食欲が戻り、体重も増え、再びお散歩に行けるようになりました。
その春には、たんぽぽと一緒に写真を撮ることもできました。

治療により病状を長く管理できた:春を過ごす姫ちゃん

さらに翌年の春にも、抱っこでのお散歩ではありましたが、
ご家族と一緒にもう一度春を感じる時間を過ごすことができました。

もちろん、同じ治療がすべての患者さんに同じように効果を示すわけではありません。
腫瘍の状態、全身状態、検査結果、ご家族の希望を踏まえて、治療方針を慎重に考える必要があります

終わりに・ご家族での治療の考え方

この治療は、腫瘍を完全になくすための治療ではありませんでした。
しかし、排尿の苦しさを和らげ、ご家族と一緒に過ごせる時間を取り戻すことができたという意味で、姫ちゃんにとって大きな意味のある治療だったと考えています。

今回、ホームページでの症例紹介についてご家族にご相談したところ、姫ちゃんの経験が、同じ病気で悩まれているワンちゃんやご家族の役に立つのであればと、快くご承諾くださいました。

姫ちゃんの頑張りと、ご家族が大切に過ごされた時間が、同じように尿道腫瘍や膀胱腫瘍で悩まれている方にとって、少しでも希望や治療を考えるきっかけになればと思います。

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